IT先進企業直撃レポート
Case 2
後回しにされがちだったWEB反響を専門チームがチャット対応で来店率アップ
良和ハウス
近年シェアが増える一方のWEB反響。店舗で後まわしにされがちだったWEB反響を、一元化して専門チームがチャットを使って対応をすることで来店率大幅アップ、半期で対前年113.8%という好業績につなげた良和ハウスを訪ね、導入から運用までのプロセス、工夫点、成果などをMINAHAREでの日管協会員向けのナレッジ公開のため取材してきました。
WEB反響からの来店率を上げるため、カスタマーサービスチーム設置
賃貸管理戸数2万戸で中四国ナンバーワンの良和ハウス、賃貸営業部の石井幸治次長に社内をご案内頂きます
- 上野
- 次々にITを取り入れた新しい試みをされていますね。いつからどのようなきっかけで取り組んでいるのですか?
- 石井次長
- 私が正式に賃貸を担当するようになったのが2017年10月です。高い成約目標を達成するためにはどうすればいいかと過去データを分析した際、WEB反響数は増えているものの、そこからの来店率は5年間約20%で横ばいだったことに着目。反響数や来店数など他の数字は総じて伸びているのに、総反響の6割を占めるWEB反響からの来店率だけが変わっていないのです。この来店率をあげて取りこぼしをなくすことが最優先課題だと直感しました。
- 上野
- 反響数が同じでも来店率を改善すれば、効率よく無理なく来店数アップ、そして成約数アップにつながるということですね。
- 石井次長
- はい。実際繁忙期の店舗では、直接来店者や電話などの目先の対応に追われますので、WEBからの問い合わせがあっても対応は後回しになりがち。手が空いて対応するころには時間が経過しているので、複数社に問い合わせをしている場合などは競合に負けてしまうでしょう。このままWEB反響対応を店舗任せにせず、全13店舗分をまとめて対応して来店率アップを図る専任チームをつくって2018年1月より運用スタートしました。
- 上野
- 専任チームを設けることで、店舗側は営業に専念できるということですね。それで実際のところ、狙い通り来店率アップ、業績アップにつながったのですか?
- 石井次長
- 業績は対前年113.8%(10月-3月)と大きく伸ばすことができました。これは5年間20%で横ばいだった来店率が、1月開始で2月29.9%、3月31.6%、4月34.1%と右肩上がりだった成果です。
- 上野
- 繁忙期に合わせて1月運用スタートということで短期の立ち上げで舞台裏は大変そうですね。計画段階から、実際導入・運用開始までの流れを教えて下さい。
- 石井次長
- 立ち上げには2つのハードルがありました。一つはコスト面です。先行してAIチャットを用いてWEB対応をしている賃貸管理会社さんに見学に伺いそれを参考に、同じイタンジさんの仕組みを検討したのですがシステム導入に予想以上のコストがかかって。他のシステムも検討したものの、使い勝手の面でやはりイタンジさんの「ノマドクラウド」を選択、その検討と決済に時間がかかりました。二つ目のハードルは人集めです。WEBカスタマーチームは現在社員3名、パート2名の5人体制。この人材確保と人件費の捻出も大変でした。具体的な運用方法や工夫点などはチームのメンバーに是非話を聞いてください。
AIチャット先行事例を参考にカスタマー対応は現場で日々進化
WEB反響にチャットで対応するWEBカスタマーチームの宮崎さん(右)と藤原さん(左)
- 上野
- 具体的にWEBカスタマーチームは、どのようにスタートしたのですか?
- CS 宮崎
- 私は元々店舗の営業担当でした。1月の運用開始に向けて、12月にカスタマー担当になった3名で先行している会社さんを訪問、WEB反響をAIチャットでどのように対応しているのか、運用方法などを具体的に教えて頂きました。基本的な仕組みは同じだったので、見学した先行企業をお手本に、定型文できちんと対応することを目標にスタート。1月から一店舗ずつWEB反響対応の移管をはじめ、カスタマー対応しながらマニュアルを作りながら、徐々に対応店舗数を増やし1月中に全13店舗移行しました。
- 上野
- いきなり13店舗分のWEB反響対応ではなく、少しずつ移管して、運用しながら現場で仕組みを作り上げていったわけですね。お客様との具体的なやり取りはどのように?
- CS 宮崎
- WEB問い合わせの最初の返信がAIの定型文で、お客様にその後のやり取りの方法を選んでいただく内容です。今は8割がチャットを選び、ラインとメールが1割ずつ。チャットによるやりとりは、メールに比べてカジュアルだし、断然早いですね。
- CS 藤原
- チャットは用件のみ、ひとことふたことでも、一行でもすぐ送れるので便利です。ラインも同様ですが絵文字などは仕組み的に表示されません。
- CS 宮崎
- スタート当初は、チャットでもなるべく個性を殺した文面で、私自身が機械になったつもりで事務的にお客様とやりとりしていました。
- 上野
- 店舗来店に至るまでの黒子になりきったのですね。今は違うのですか?
- CS 藤原
- やりとりも回数を重ねるうちに、だんだん相手のトーンに合わせて返信したほうが反応いいことが分かってきて。例えば文頭に「××様」とあったら、こちらも「□□様」から始める。「!」や顔文字などが入ってきたら、こちらも使ってみると距離感がぐっと近づきます。
- CS 宮崎
- 内容も変わりました。最初の頃は駐車場の有無を聞かれたら「ありません」で終わっていましたが、今は近くの駐車場をご案内します。問い合わせいただいた物件が決まっていたら似た物件を提案したり、物件紹介時は周辺環境などお客様の関心ポイントを補足したり。個別性のあるコメントを入れると親身に感じて頂けるので、現場で対応しながらどんどん進化していきました。AIではそこまで対応できないので、結局手打ちのコメントになります。
- CS 藤原
- AI任せだと正直的外れなコメントになりがちで、時々びっくりします。ぴったりなのは50回に一回程度でしょうか(笑)。チャットでお客様に合わせた手打ちのコメントで対応しています。
- CS 宮崎
- 手打ちコメントでよく使うものを定型文化していき、早く返信するためのツールとして使っています。さらにマニュアル通りWEB反響は必ずWEB対応ということでもなく、電話番号が書いてある場合はそのほうが早いので電話もしています。これらは店舗営業だった時の接客経験が役立っていますね。
- CS 藤原
- 私は元々事務職採用で営業ではないし、ネットやメールにも苦手意識がありました。でもやってみると、目の前の反響にどう対応すればいいかチーム内でワイワイ考えるのが楽しくて。つい親身になって、前のめりに情熱を持って返信しています(笑)
- 上野
- お客様に対応するという意味では、店舗で対面でも、チャットを通じて非対面でも、基本は変わらないということですね。こうやってお話を伺う間にも笑いが溢れて明るい職場なので、その雰囲気がお客様にも伝わるのでしょう。
成果の「見える化」で来店率アップ。さらに店舗業務の効率化で決定率もアップ
笑い声が絶えないWEBカスタマーチーム。壁のカレンダーには手書きで「来店/反響」の数字が書かれている
- 上野
- 毎月来店率がグングン伸びているそうですね。マニュアル以外にも秘訣があるのでしょうか。
- CS 宮崎
- 1月から無我夢中で運用を始め、1月中旬にカレンダーに「来店数/反響数」、つまり来店率を手書きで毎日書き始めました。そうしたら「よし、35%を目指すぞ」と、自然にチーム皆で盛り上がってきました。
- 上野
- 「見える化」で数字を意識するようになったこともプラスに働いたわけですね。
- CS 藤原
- 業務終了時に、数字を確認して毎日記入するもゲーム的で楽しくやっています。
- CS 宮崎
- 来店が決まったら私たちの手を離れるわけですが、そのお客様がちゃんと予定通り来店したか、その後も契約になったかなど、気になっちゃうので店舗から必ず結果の事後報告をもらうようにしています(笑)。
- CS 藤原
- お部屋が決まったという話を聞くと、本当に嬉しくて、チーム皆で盛り上がります。
- 石井次長
- 来店率が上がっただけでなく、接客に集中できることで店舗側の来店後の決定率も上がるという副産物もありました。WEBカスタマーチームに任せておけば、きめ細かいフォローを経て、来店日時がフィックスされた案内するだけの状態で店舗に引き継がれます。その際、過去のやり取りなど詳細な情報もつけてもらっているので、初対面でも会話はスムーズ。関心事もわかっているので、現地に案内する際も適切な説明ができます。これが決定率のアップにつながっているのではないかと推測しています。
お客様にも店舗にも好評なおもてなしの精神と働き方改革
「おもてなし」を大切にする社風は、社訓を記したカードや店舗内の標語、そしてお菓子付きの飲み物提供など店内随所に感じられる
- CS 宮崎
- お客様とやりとりする際、チャットであってもひとつ聞かれたら3倍お返しする気持ちで対応しています。相手の立場になって、自分だったら嬉しいだろうと思う情報を提供するのは、店舗で直接接客しているときと全く同じですね。もちろん法人の男性客など「聞いたことだけ返事を」というタイプの方もいらっしゃるので、相手を見てチャットのメッセージも使い分けます。
- CS 藤原
- 宮崎さんは本当にお客様の立場に立った、やんわりと包み込むようなコメントを返すのが上手で。「和室の物件ですが赤ちゃんにはいいですね」とか、ただ情報を与えるだけじゃなく一歩先の一言を添えていることに感心します。営業経験があるから自然にしているのかもしれませんが、いいと思うフレーズなどは私も真似するようにしています。
- 上野
- チーム内でナレッジを共有したり、働きやすい雰囲気づくりをしたり、自然にできているのですね。
- 石井次長
- そのおかげもあってか、店舗側が接客に集中することで来店後の決定率も上がるという副産物もありました。WEBカスタマーチームに任せておけば、きめ細かいフォローを経て、来店日時がフィックスされ他タイミングで店舗に引き継がれます。店舗側からも大好評で、「今度もよろしく」と手土産付きでカスタマーチームを次々訪ねてきます(笑)。お客様も見学物件が決まって店舗担当に引き継ぐと残念がることも多く、「お礼が言いたい」とわざわざ訪ねてきたこともありました。
- 上野
- 機械的・事務的な対応では、こんな関係は生まれませんね。対面接客でなくチャットなどのITツールを使っても、おもてなしの精神がお客様にも伝わっている象徴ですね。
- 石井次長
- 業務をまとめることで、もうひとつ発見がありました。実は同じお客様が、複数店舗に問い合わせしているケースがあって。個別に店舗ごとに対応していたら気付かなかったので、こういうところでも無駄を省くことにつながります。
- 上野
- 業務をまとめることで、次々に効率化のメリットが生まれたのですね。
- 石井次長
- また、専門チームをつくったことで働き方改革にもつながりました。現在社員3名とパートタイム2名のチームですが、メール対応はたいてい朝に集中します。パートタイムの方には朝来ていただきまとめてメール対応をして昼過ぎにはピークは終わるので、小さなお子さんのいる主婦の方でも負担のない働き方ができます。接客経験のない女性社員や産休明け・育児休暇明けなどにも適しています。女性のほうがメール返信にしても電話にしてもソフトで好感がもたれるので、ちょうどいい組み合わせになりそうです。
- 上野
- まさに今求められている「働き方改革」の実践ですね。おもてなしの心を大切に、ますます新たな挑戦を期待しています。ありがとうございました。
まとめ:チャット活用3つのポイント
チャットならではの特性を知って使いこなす
先行する類似事例を研究するなどでチャットの特性を把握。短い文章でのスピーディに、メールに比べてカジュアルなやりとりができるチャットのメリットを使いこなそう。
ITはあくまでツール。自社の強みや特徴を生かして進化させる
自社の人材や特徴などの強みを生かした運用をしてこそ他社との差別化が可能。チャットも対面も同じと思って運用をしながら、マニュアルはどんどん進化させるべし。
業務を集約することで成功パターンが共有蓄積され、それぞれのスキルが上がる
共通の業務をまとめることで、チャット対応も店舗営業も情報共有がしやすく、それぞれの業務に集中できるので、効率もスキルもあがって成果が出やすい。