IT先進企業直撃レポート

Case 1

バーチャルリアリティによるお客様との新しいコミュニケーションで生産性アップ

秋田住宅流通センター

2018年、賃貸管理の現場においてもIT重説・AIチャット・電子契約・IoTなど様々な分野でIT化が進んでいる。そこで2017年12月にバーチャルリアリティ(VR=仮想現実 )のシステム導入を決定し、翌年1月に店舗での実装導入を始めた秋田住宅流通センターに伺い、その意思決定プロセスや使ってみての実感などをMINAHAREでの日管協会員向けのナレッジ公開のため取材してきました。

大雪降る繁忙期、秋田に8店舗を構え管理戸数約7000戸の秋田住宅流通センターを直撃

来店促進、業績アップにつなげることを目的にVR接客の検討開始

お話を伺ったのは秋田住宅流通センター賃貸本部の佐藤充常務
上野
VRはいつから、どのようにご検討され導入されたのでしょうか?
佐藤常務
2015年くらいからVRについて耳にするようになり、興味を持ちました。まだ前の入居者が住んでいて現地に案内できない物件は、ご紹介したくてもなかなか店舗まで来てもらえません。それに対して「バーチャルリアリティでお部屋を見ることができます」と切り返せれば、来店数も増えるのではないかと思ったのです。
上野
そもそも業績アップの意図だったのですね。その時導入を見送った理由は?
佐藤常務
実際に様々なVRの資料を取り寄せると、そのVR画面作成のために、動画の撮影などセットアップのためのコストと時間が膨大にかかることがわかりました。費用は40万円から高いもので百万円を超えるものも。一棟の新築分譲マンションならともかく、賃貸物件にはオーバースペックなシステムで、さすがに現実的ではないと判断しました。
上野
たしかに賃貸の現場では、撮影に時間やコストがかかっていては導入の現実感がありませんからね。「大手の分譲マンションでも使っているから」などと、選んでは危険なのですね。

決め手は制作コスト・時間・手間。導入決定から実質約2週間でVR接客開始

試験導入した秋田住宅流通センター泉店とお話を伺った佐藤充常務
上野
では今回導入に踏み切ったシステムは、何が違っていたのでしょうか?
佐藤常務
2017年12月に導入したナーブのVR技術を使った疑似内見システムは、これまでシータで撮影していた既存の360度画像をそのままVR映像として使えるシステムでした。この情報を入手して、制作面のパワーやコストが課題だっただけに、これはよさそうだとピンときました。
上野
実際のところ、どれくらいの手間とコストだったのですか?
佐藤常務
素材となる360度画像と間取り図のデータさえ揃っていれば、間取り図にどの位置からの360度画像かなどを入力する手間だけですみ、作成コストもほぼゼロ。実質VRカメラのレンタル代一台約2万円/月のみの負担なので、すぐにやろうと決断しました。契約後12月26日に実物のVRカメラが届いて、年内営業日あと2日しかない中、物件情報の登録作業をしました。年明けの広告チラシに「VRを使って部屋探しができる」と記載した手前なんとか間に合わせ、年明けから接客に使いました(笑)。
上野
それは超スピード導入ですね。現場で混乱はなかったのですか?
佐藤常務
運用開始にあたって、VR対応する物件の情報入力し、物件数もある程度揃えることも必要でした。年末の忙しい時期だっただけに、現場から「いきなりすぎます」と苦情は出ましたが、間取り図と画像の素材が揃っていて、慣れれば作業時間は一物件当たり5~6分。全8店舗中、まずは1店で試験的に導入してみることで、現場オペレーションの負担を軽減しました。
上野
短期間での運用開始できたのは、小さく一店舗でスタートしたこと、そして360度画像のストックがあったのが要因だったのですね。

お部屋の情報を立体的に空間イメージとして伝えることにこだわる

上野
そもそも360度画像への取り組みも早かったのですか。
佐藤常務
物件情報を平面としてではなく、立体的、全体を見て空間イメージを伝えることにこだわっていました。そのため約5年前に上下左右・360度グルッと写真に収めることのできるリコーシータが発売された際、いち早く取り入れました。当時はまだ住宅ポータルサイトにも360度画像は掲載できなかったので、自社サイトと来店時しかつかえませんでしたが、約5年かけて360度画像を蓄積してきたおかげで、ほぼすべての物件の画像データも揃っています。
上野
なるほど。この空間イメージを伝えたいというこだわりがあったおかげで、たくさんの360度画像ストックがあり、今回これが有効活用されたというわけですね。

VRは自然に笑顔になり興味関心ポイントを把握しやすいコミュニケーションツール

VRを使うと動きとともに笑顔も出て、同じ画像を見てタイムリーな情報提供ができる
上野
実際のところ、業績はこれで上がるのですか?
佐藤常務
それが面白いことに、入居中で内見できない物件を案内VR案内で、という当初の目的とは違うメリットが出ているのです。私たちは、実際に内見に行くと、どうしても物件をみながら勝手に説明してしまいますよね。VRカメラの画面を見ているお客様は、自由に上や後ろを見たりしますが、お客様が見ている同じ画面を店舗側でも手元のPC画面で見ることができるのです。上を見ているお客様には「天井高は吹抜けになっていて開放感があります」とか、下を見ているお客様に「フローリングの色や素材は」などと、タイムリーに関心があることの情報提供をすることができるのです。
上野
なるほど、関心がある事を把握してタイムリーな情報提供で、「あと一押し」できる。これは成約率アップにつながりそうですね。
佐藤常務
実際使ってみると、上を見たり後ろを見たり動きが出て、説明をしながらお客様も接客側も自然に笑顔になっています。店舗の雰囲気も良く現場でも好評で、例年より成約率も向上しています。
上野
店舗の雰囲気が明るくなるのも、業績アップに貢献しそうな副産物ですね。
佐藤常務
現在入居中で実際にご案内できない物件でも、タイムリーにVRで疑似体験して感覚をつかんでいただくことはできるのは、狙い通り大きなメリットです。そのまま実際に見学なしで成約ということではないのですが、店舗で一緒に候補物件のVR画像を見ながらコミュニケーションをとることで嗜好や条件をより具体的に把握でき、実際に見学する物件数を絞り込むことも、新たな候補物件を提案することもできます。
上野
現地に行く前段階でコミュニケーションを深めることで、結果的には時間効率も成約率も上がる、というわけですね。

VR接客が珍しいとテレビ取材もあり話題に。小さくても早く始めるべし

地元のABS秋田放送 news every. に取り上げられ、関心の高さを実感(2018/1/24放送画像より)
上野
試験的に導入してみて、今後の課題や取り組みのご予定は?
佐藤常務
現段階では一店舗のみの導入で対応物件も限られているので、お客様の希望物件とVR対応物件が必ずしも一致するわけではない、という課題があります。今後はさらに360度画像の物件を増やし、VRシステムへの登録をすすめていきます。さらに、VR接客のためには、店舗設備面で接客テーブルにPCモニターが必要となります。好評だったことを受けて、店舗面でも条件を整え、今期中に全店舗にVR接客を広げて行く予定です。
上野
まずは早い段階で一店舗お試ししたことで、成果や課題も具体的になったということですね。
佐藤常務
ITを取り入れるにあたって、スピードは大切です。「バーチャルリアリティを利用した部屋探し」が珍しいと話題になり、地元のTVニュースにも取り上げられました。これから取り組むという会社でも、空室物件が出るごとに360度画像などの情報を今から蓄積していけば、3年後には大きな情報のストックができます。気になったことはすぐに実行すれば、後々大きな差になると思います。
上野
新しい物を取り入れるスピード、そして地道な情報のストック、両方が必要ということですね。今日はありがとうございました。

VR(バーチャルリアリティ)内覧の導入、3つのポイント

システムの機能だけでなく、制作コスト・時間・手間を重視する

どんなに素晴らしいシステムでも、導入にあたってのコストや時間、マンパワーなどがかかりすぎると破綻しやすい。現実的な運用イメージ具体的に検討の上、導入を。

最初の一歩は小規模に、まずは試験的に始めてみる

いきなり全店舗に導入するのではなく、まずは一店舗でお試しすることで、入居希望者が何を見ているかわかるなど、想像していなか成果が実感できる。

やるからには地域でいち早く導入。情報のストックも財産に

導入するからには少しでも早く開始することで、情報ストックも増える。更にTV取材など話題性という副産物も期待でき、他社との差別化にもつながる。