IT先進企業直撃レポート
Case 3
IT重説の専門部隊に身体障碍者の雇用創出。
新しい価値を生み、業務の効率化で業績もアップ
良和ハウス
試験運用を経て、2017年10月に本格運用スタートとなった「IT重説」(ITを活用した重要事項説明)。これに対応していち早くIT重説の専門担当を設け、店舗側の有資格者に集中しがちな業務を分担して来店者の接客に専念できる体制を作ることで繁忙期を乗り切り、半期で対前年113.8%という好業績につなげた良和ハウスを訪ね、導入から運用までのプロセス、工夫点、成果などをMINAHAREでの日管協会員向けのナレッジ公開のため取材してきました。
IT重説担当を設け、繁忙期に店舗の有資格者も接客優先の体制に
賃貸管理戸数2万戸で中四国ナンバーワンの良和ハウス、賃貸営業部の石井幸治次長に社内をご案内頂きます
- 上野
- 2017年10月から正式運用開始になったIT重説に関しても、専門部隊を作ったと伺っています。このとりくみはいつからどのようなきっかけで?
- 石井次長
- 私が正式に賃貸を担当するようになったのも2017年10月、ちょうどIT重説が運用開始になったタイミングでした。IT重説に関しては試験運用を経て正式に運用開始になった際、来店の時間が取れない、遠方などで物理的に来店できない、などのお客さまだけを対象に例外的に運用するという考え方もありました。しかし、試験運用段階で全店の重説業務を一か所に集約して運用をしていた賃貸管理会社さんを8月に見学して、やるなら全店舗集約して導入、というのが社長命令でした。そもそも店舗で宅地建物取引士による対面での重要事項説明をする場合、来店から契約書を確認してお渡しして、更に記入をしますので、結局1時間はかかります。しかも繁忙期の土日などに店舗の宅建有資格者にその業務が集中することになり、大きな負担になります。中途半端に導入するのではなく、集約できるものは一か所にまとめることで、繁忙期でも店舗は接客に集中できるようにというのが参考にした先行企業の運用モデルでした。この考え方で、全店導入することが決定していました。
- 上野
- 正直、聞いたときはどう思ったのですか?
- 石井次長
- できるのかな、と疑問でした。組織や人の関係もありましたから。でも意志をもってやろう、ということで取り組み始めました。見学した試験運用で既にIT重説に取り組んでいた先行企業をお手本に、システムはリクルートの「SUUMO重要事項説明オンライン」を導入。公募による社員募集や社内異動などで、社員2名・派遣社員1名の3名体制で11月からスタートしました。
- 上野
- 具体的にはどのように運用しているのですか?
- 石井次長
- 色々なスキームをつくりました。サイボウズの中で重説対応可能な宅地建物取引士のスケジュールを共有して、店舗側で重説の予定が決まったら、まずIT重説担当の3名を最優先でスケジューラー依頼。専任の3人のスケジュールが埋まっている場合は、本社の営業外の有資格者約10名が順次対応する仕組みです。予約を入れたら、そこに契約書と身分証明書をPDFで添付して、依頼完了です。
- 上野
- 従来は全て店舗内で担当していた重説業務を、IT重説専任担当だけでなく、本社の営業以外の宅建資格者の力も借りて、店舗の負担軽減を図ったというわけですね。
- 石井次長
- はい、中には資格は持っているけれど一度も重説をしたことがないという社員もいましたが、業務負担も考えあわせて優先順位をつけ、専任担当のスケジュールが空いていない場合は協力してもらい体制にしました。
- 上野
- 今までは全て各店舗内で担当していた業務なので、店舗にとっては大きな負担軽減ですね。
宅建の資格を活かして身体に障害があってもやりがいのある仕事創出
宅地建物取引士証を見やすく拡大したツールなどを用意して説明する岡本さん(上)と店舗来店の中国人と通訳を介してi-padでやりとりする高橋さん(下)
- 石井次長
- 更に組織面でも、IT重説担当の社員2名がたまたま身体に障害があったため、資格を活かしつつ社内でできる体に負担のない仕事を創出する結果にもなりました。
- 上野
- 実際にIT重説のお仕事をされているお二人の実感はいかがですか?
- IT 高橋
- 私は右半身に障害があり歩けません。入院中に宅建資格を取得して、これを活かした仕事があればと思っていたところ不動産会社の社員募集があったので応募しました。資格を活かす仕事は初めてで、もちろん重説もしたことはありませんでした。資格の分前職よりお給料も上がったし、アポイントの時間が決まっていて残業もないし、仕事も社内なので身体に負担もかからず、大変やりがいがあります。
- IT 岡本
- 私も障害があるのですが、店舗勤務で直接の接客の仕事が好きでした。宅建資格があったのでIT重説担当に異動になったのですが、実際やってみると、距離に関係なく地方や海外のお客様にもお役にたてるのが嬉しいです。
- 上野
- 身体に負担がなく、資格を活かせて、さらにやりがいも感じられる仕事、ということですね。
- IT 岡本
- はい。さらに私は往復3時間かけて通勤していますが、この仕事は将来的にはPCさえあれば出社しなくても自宅で出来るのではと期待しています。私たち障害者だけでなく、子育て中の女性にも広がるといいなと思っています。
- 上野
- IT重説に取り組んだことで、障害者雇用や社会貢献など新たな価値を生み出す結果になったわけですね。いいお話を伺いました、ありがとうございます。
重要事項説明をするIT重説担当はもちろん全員宅地建物取引士。お話を伺って思わず握手。
IT活用が業務効率化や自社の強みや人材などリソースを活かすきかっけに
- 上野
- IT重説に移行出来たのは実際のところどれくらいですか?負担軽減効果はあったのですか?
- 石井次長
- 店舗によってもばらつきはあるのですが、3月の賃貸契約のIT重説数は450件でした。法人は対面のみなので移行できませんし、個人でもスマートフォンかPCがある方しか対応できないのですが、今後IT重説可能な物件の100%移行を目指しています。狙い通り店舗側の営業効率も上がっていて、成約は半期で対前年113.8%と好調。店舗から、「繁忙期は来店も多く忙しかったけれど、身体は楽だった」という声も聞きました。
- 上野
- それだけの時間を接客に回せる、と思うと、メリットしかないように感じますか?
- 石井次長
- 一方で、店舗側には事前に必要な資料をお客様とIT重説担当の二か所に事前送付するなど、新たな作業が発生します。いままでは来店までに書類を作るだけで良かったのが、資料作成後、二か所にしかも期日前に到着するように発送する作業が増えたのです。
- 上野
- 作業が増えて業務効率は実はあまり変わらないとしても、営業効率アップには確実に貢献しましたね。
- 石井次長
- 店舗での重説業務をまとめることによって発見もありました。IT重説のお客様の対応が平日は昼休み、そして休日は用事を済ませてから外出するためか午前中、希望時間帯が集中することがわかりました。集中する時期や時間帯だけの働き方など、今後も発展の余地がありそうです。
- 上野
- 効率アップ以外にもまとめることのメリットがあったのですね。2つの新たな専門部隊をほぼ同時に短期間で立ち上げるコツなどはありますか?
- 石井次長
- それぞれ先行している事例があったので、直接お話を伺い、大変参考にさせていただき、まずは一店舗ずつ徐々に移行しました。さらに、運用を始めてみると、最初は先行事例の見様見真似で初めても、自社の強みと人材のリソースを活かし新たな価値を生み出してくれました。
- 上野
- 今後の展開はどのようにお考えですか?
- 石井次長
- WEB反響対応やIT重説など業務の分業が進むと、店舗の営業効率が良くなる半面、営業本来の仕事全体の流れや中身を知らず、仕事の一部だけをやるという弊害も出かねません。それを避けるため、新人にはいろいろな店舗や部署を回る研修なども実施して、仕事全体の流れを知ってもらうよう配慮しています。IT重説も、いまは宅建有資格者の障害者活用になっていますが、スキルと環境が整えば通勤の必要もなく自宅でもできるので、問い合わせが集中する時間で子供のいる女性活用など働き方の多様性にもつなげられる有益な試みとなりました。
- 上野
- まさに働き方改革ですね。また新しいチャレンジで雇用の創出や価値の創造が生まれることを期待しています。本日は貴重なお話ありがとうございました。
まとめ:IT重説導入3つのポイント
一部導入か全店一括導入か方針を決める
本格運用は開始しているので、一部導入ならすぐにでも可能。一元化して業務集約した組織にすることで、特に繁忙期の店舗の負担大幅軽減が可能。
IT重説担当は専任でなくても営業以外の兼務もOK
人材の確保が課題の場合、季節や曜日、時間帯での業務量の増減が激しいので、全て専任担当で対応しようとせず、兼務で社内の営業以外の有資格者をアサインする方法も。
IT導入をきかっけに、働き方改革や新しい価値の創造につながる
IT導入で新たな組織を作ることで、従来の業務フローに縛られない働き方改革や新たな価値の創造につながる。多様性が求められる時代、IT導入が変化を起こすきかっけにもなる。